二月小世界集成

ここから何か拾い上げることが出来るなら、ぼくも少しは浮かばれます

スモール・シティ

小さいエフェクターボードを作りました。

A地点からB地点まで進む道のりを即ち時間、あるいは歴史であるというのなら、写真家とはその中間地点のある一瞬を切り取る仕事だとは今しがた読み終わった小説に書いてあった言葉だが、まさしくある一端から別の一端へという点においてはギターシステムも類似した形をしていると考えはじめたのが半年前のこと、すかさず読み齧っただけの都市論を持ち出しては機材と街の機能的相似形について空想し、ついには一つの巨大都市の幻影を生み出した。
ここで生まれた都市というのはエフェクターボードそのもののことなのだが、そう言い張るにはいくつか理由がある。まず、エフェクター一つ一つには機能性があること。と、いうよりは形状化された機能がエフェクターなので、あるいはこれ一つが一メソッド、一オブジェクトとなる。オブジェクト間の相互機能という点で、これはおおきなプログラムでありながら、その一要素ごとに異なる名前と性質と〈個性〉を持っている。でありながら、ギターサウンドは交流電圧として、ギターからアンプへただ単純にゆっくりと前進し続ける流れなのではなく、知覚不可能なオーダーでの低遅延な信号のやりとりであるので、出口と入口はまさしく接続されている。そういうようなぐるぐる巻きの都市構造を我々は古くから、知っているような気がしている。その名は、迷宮という。メイズ、ではなくラビリンス、クレタ式である。なお、分岐を加味すれば迷宮性から都市性へ性質が移り変わり、プログラマブルスイッチャーを導入しようものならば、エフェクターの順番・配置における必然性が希薄となり、レム・コールハースのいう無機質なタイリングされた近代都市構造ジェネリック・シティに近しいものとなるところが面白い。

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と思っていたのだが、思弁的エフェクターボードはその文学創作活動における使い勝手の良さと反するようにして——

スタジオに持ち運び難い。
当たり前です。

要塞エフェクターボードといえば、でかい&重いハードケースでキャリーでがらがら引き摺りながらスタジオインする様子をバンド仲間の姿に見ていて知っていたので、僕がボードを作るならスタイリッシュなすのこボードに、軽いソフトケースで肩掛けして運ぼうと楽観視していた。
目をつけたのは、Palmer Pedalbay 60。ペダルトレインの後続類似品、最初からマジックテープが底面に貼ってあり、裏側には中程度の大きさのパワーサプライを括り付ける場所がある*1。ボードの耐久性、使用感、ともに問題なく、初めはその大きさに圧倒されたものの徐々に馴染みかけてきたところでスタジオに持っていこうとした。
ペダルベイ、ボード自体については軽い。エフェクターを乗せると当たり前だがずっしりとくる。配線が裏に通せるのでペダル同士をくっつけることができるため、調子に乗った僕はもう乗せまくりにしてしまった。乗車率120%。超・密です。

問題点は主に三つ。

一、チルト(傾斜)したすのこボードは扱い難い。
難しいです。たしかに、奥のペダルを踏む際に足を伸ばさなくてもいいという効果を出すためですが、運搬の際には重力バランスがとても悪くなります。特にソフトケースだし、肩掛けしたところでケースごとボードの表側に倒れていく。キャリーに乗せても、ソフトケースには保持力もないし、中のペダルを押し付けて支える力もないので縦にすると崩れやすい。
ペダルベイの裏側が軽いせいかも。角に足一本ずつで支えているので、高さを調節できるのが可能な対処法か。でも裏にパワーサプライ置いてるし、チルト下げすぎるとパワーサプライの筐体が床にぶつかる。
ペダルトレインだと大丈夫とか、あるかな?
ともあれ、チルトしてるボードは重量バランスに気をつけていただきたい。
少なくともエフェクターボード初心者は平なものを選ぶ方が絶対にいい。

二、ソフトケースが重い。
重いです。ボードが1キログラム超くらいで、ケース(硬めのカバン)が3キログラム以上ある。30×60の同サイズならもっと軽いハードケースはあるだろう(まあ質はともかくとしても)。
ソフトケース付きペダルボードは、ハードケースのものに比べて軽いかと思いきや、ガワとナカが分かれていることで意外と重い。たしかに、ペダルトレインの方はハードケースとなるとツアー用のガチガチに重いやつしか見たことないし、すのこ自体を支えるためにそれなりの強度が必要なのだろう。

三、見た目がしっくりこない。
ボードは街みたいだな、と思った。エフェクターは建物なら、パッチケーブルは道だ。そう思ってみると、配線が絡み合ったボードはバランスが良く、カッコいい。
ケーブルを裏に隠せるということは、その面白みが消えてしまうのだ。チルトがあるので裏にケーブルを回す方が重量バランスも良いのでそうするべきだけど。

そんなふうに考えながら、ついにボードをハードケースに作り直そう、と決めた。

で作った。

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これは配線が汚い部類に入るとは思いますが、流石に途中です。

ARIA EBC-600。

21×37のボードにメイン機材を詰め込み、基本はこれ一つで事足りるようにしたいと思いながら、このごちゃごちゃ感が安心する。
アリアのボードは白黒の外装が洒落っ気を感じさせながら、上蓋にウレタン付き、肩掛け紐用フックとベルト付きと、かなり実用性が高い。
内張のマジックテープは剥がれやすいので、配置を設定したら無闇に動かさないのが吉だが、いっそ剥がして別に貼り直すのも良い。

エフェクターボード作るならまずハードケースから。ということです。
今週末はスタジオなので、運搬が簡単になっていることを実感できる予定。

*1:付属のゴムで固定する方式。意外としっかりしている